山極先生からの問いかけ
現状を追認するのではなく、原因を追求すること・今に至るまでのプロセスを考えることが現状解決の糸口に繋がります。どうしてこんなことになったのかを考えてほしいです。
一般社団法人SWiTCH
総合地球環境学研究所
北海道⼤学
環境健康科学研究教育センター
Future Earth日本委員会
⽇本財団
海と日本PROJECT
日本テトラパック株式会社
人類が地球1個で暮らしていくために、若者が企業に期待することを話し合い、意見を発信する「SWiTCH CHAT for actions」の第1回目として、人類学・霊長類学のアカデミアトップにご登壇いただき、参加者とともに、環境問題から人工知能や教育、社会システム、人類の在り方について、高い視座で話し合う機会を提供した。
13:00 - 13:15 |
SWiTCH 佐座「開会の挨拶」当プロジェクト説明, 地球1つで暮らしていくための参考情報 - UNEP「GEO6 for Youth」等 |
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13:15 - 13:20 |
参加者同士のディスカッション 1「地球1つで暮らしていくために企業に期待すること」 |
13:20 - 13:40 |
山極先生 x 山内先生 参加者との対話「若者のディスカッションを踏まえて」 |
13:40 - 14:00 |
クロストーク(事例1:気候難民) |
14:00 - 14:20 |
クロストーク(事例2:貧困と教育) |
14:20 - 14:40 |
クロストーク(事例3:技術革新) |
14:40 - 14:50 |
SWiTCH 佐座「閉会の挨拶」 |
14:50 - 14:55 |
意識調査 |
14:55 - 15:30 |
会場での交流会 |
1952年 東京都生まれ。京都大学理学部卒。理学博士。京都大学大学院理学研究科助教授、同教授、同研究科長を経て、第26代京都大学総長。人類進化論専攻。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、日本学術会議会長歴任。現在は総合地球環境学研究所所長。南方熊楠賞、アカデミア賞受賞。『猿声人語』など著書多数。
1998年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(保健学)。2013年より現職(保健科学研究院・教授)。2018年から2022年まで総合地球環境学研究所・教授を兼務。2022年より北海道大学環境健康科学研究教育センター長を兼務。総合地球環境学研究所 客員教授。人類進化と環境適応に基づく健康、サニテーションの調査研究を行っている。
1995年生まれ。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン大学院サステナブル・ディベロプメントコース卒。Mock COPグローバルコーディネーターとして、140ヵ国の環境専門の若者をまとめ、COP26と各国首相に本格的な18の政策提言を行い、世界的な注目を浴びる。COP26日本ユース代表。
会場の参加者は4,5人ずつのグループに分かれ、ディスカッションを実施しました。参加者同士のアイスブレイクとして、開催日の「海の日」「海と日本PROJECT」にちなんで「好きな海の生き物」を参加者の名札に書いてもらい、イベント中はその名前で呼び合うように促しました。
さらに「地球環境で関心のあるワード」をホワイトボードにひとり一つ書いてもらい、話し合いを活発に行うための導入としました。
地球温暖化 / 地球の寿命 / 気候変動 / 温度上昇 / 里山 / ゴミ問題 / 森林破壊 / 食糧 / 水質汚濁 / 海洋温暖化 / 赤潮 / サンゴ白化 / 再生能力 / プラントベース / 原住民 / 気候難民 / 人口増加 / DEI / 生物多様性 / エネルギー問題 / 再生可能エネルギー / 化学物質 / 合意形成 / ウェルビーイング / 健康問題
(右画像)山極壽一先生のスライドより
海洋温暖化は先進国の人間の影響がきわめて大きいと言われています。これは水質汚濁や赤潮などについてもおなじことが言えます。COP27では海も含めた国土の30%を保護することが決められました。そのぐらいしないと、海洋温暖化によりサンゴや貝類が殻を作れず、絶滅が進んでいくのです。小さなことが大きな問題を生む状態になっています。
人口密度の少ない地域では、野外排泄(世界人口の1割)は自然の自浄能力にたよれますが、都市化などにより人口が増加していくと厳しいものがあります。日本は少子高齢化・人口減少が進む一方で、世界人口、特に若者の数は増え続けているのが現状です。日本と世界のトレンド、両方を考えていかないといけません。
アフリカの森林に住む人々の生活ではごみが出ません。ゴリラの糞もフンコロガシによって使われるし、人々は自然に溶けるものでしか生活しないのです。袋も葉っぱやつる植物で作られています。一方で人類の文明化・定住が進んだことにより糞尿の処理に困るようになりました。暮らしの在り方を0から考え直していかなくてはいけません。
現状を追認するのではなく、原因を追求すること・今に至るまでのプロセスを考えることが現状解決の糸口に繋がります。どうしてこんなことになったのかを考えてほしいです。
人類は本当にホモ・サピエンス=「かしこいヒト」なのか?
「かしこいヒト」はどうしてこのような現状を招いたのか。考えてみてください。
現状を追認するのではなく、原因を追求することが現状解決の糸口に繋がります。今に至るまでのプロセスを考えることこそが大切です。
人類は本当にホモ・サピエンス=「かしこいヒト」なのか?アフリカで誕生した人類はなぜ拡大したのか。人間の肥大化した脳は拡大に対して貪欲です。制御しきれない核の問題、「聖なる領域」と言われる生殖の問題など、後先考えずに拡大を続ける人間の本性を自覚的に考える必要があると思います。
増え続けた人口を減らすことは可能でしょうか?
発展途上国で暮らす人々の所得を15,000$/年に引き上げれば人口は減少傾向になることが知られています(ローマクラブ)。グローバルサウスの暮らしを支えるには金融の仕組みを変えるべきです。国際銀行なり、NGOなりで地球全体のGDPを平準化していく必要があると考えます。
世界人口予測によれば偶然にも人口増加は、地球の収容力の最大値(110億人)の手前で止まると予測されています。GDPからGNH (Gross National Happiness) のような、資本主義的価値観に変わるものを、日本のような先進国から打ち出していかなければいけません。近代科学は16~17世紀に欧米でできた非常に短い時間に発達したパラダイムであり、これを乗り越える新しい科学と思想・哲学が必要だと思います。
気候難民の理由について、無限の投資を進めてきたこと、人が本来住めなかったところに大都市を形成し人々が集まって多大なエネルギーを消費する生活をしたことが大きな理由だと考えます。それにより起こった気候変動の被害を受けるのは都市の人々ではなく、自然に近い場所で生活している人々。本来文化は土地により違うものだったはずですが、価値が一元化され、ジャングルに住む人々が「現代的」生活に巻き込まれるようになってしまいました。人々は換金作物を積極的に作るようになり、自然資源は経済的に富んだ国に流れ、途上国の人々は自分の口に入れられるものを作れなくなりました。小さなコミュ二ティで営まれていた農業は先進国の食に隷属した、工場的なものへと変化してしまいました。こうしたことの積み重ねが気候難民を生み出したと考えています。
発展しつつあるAIと人類の未来、自然との共生についてどのように考えますか?
情報格差=教育格差、AIが教育に入り込むことで、より本質的な教育が必要になると思います。学びのすみわけが起こるのではないでしょうか?
AIはあくまで人工「知能」です。人間には新たなこと、答えのない問いを考える「知性」があります。これは好奇心にも通じるものだと思います。
事務的な仕事は無くなるかもしれませんが、AIは遊ぶことができません。遊ぶとは情報のないところから情報を生み出すことです。また、身体的なインタラクションの中で生まれるものです。
人間は、何が美しいかなどAIにはない「感性」を大事にしていくべきだと感じます。
美しいものを美しいと感じる心、他者が何を考えているのかを想像することなどを重要視していくべきだと思います。
学校ではプログラミングの授業があって、ChatGPT等にやらせると完璧にできてしまいます。AIが普及する将来、ヒトの仕事は残るのでしょうか?
学びはひとりでするものではなく他者とするものです。脳が大きくなるのは14∼16歳までですが、メンタライジングという社会的認知能力は他者とのやり取りの中で20歳すぎまで発達します。社会的認知能力はゴリラやチンパンジーにも見られない能力であり、思いやりや共同行動など社会で生きていくうえで必要な、人間の本質にかかわる能力です。人間はあくまで社会的な生き物であり、他者との関係のなかで幸福を感じます。AIと勉強しているとその能力が身に付かなくなるのではないかと思います。
狩猟採集民の子供たちを見ていると、教育の本質は「教えないこと」だと思います。勝手に真似して学んでいくのです。もう一つ大事なのは身体性です。今のところAIとの交流は画面を通したものです。コロナ禍で私たちは画面越しではなく対面の大切さを実感したはずです。
ゼロベースだからこそ技術が発展する場面もありますが、先生方は技術が発展することに対してどのように考えていますか?
ゴリラのような生活をすることが環境的な側面からは目指すべきところであると思いますが、一度「楽さ」を知ってしまった人間は完全にはゴリラに戻れないのが正直なところです。人間のウェルビーイングとの折り合いをつける技術が大切だと思いますが、どう考えますか?
私たちの生活は元に戻れます。実際コロナ禍で都市から田舎へ移住した人々もいます。都市のような利便性はなくても安全であることに気付きました。価値観を変えることが技術革新の方向性を変えていくはずです。元に戻すことはできないという感覚を変えなければいけません。情報技術の発達により移動のコストは大幅に減りました。美的感覚を見直すなど、技術の在り方を見直していくことが求められていると思います。
他人を思いやれること、フィクションを信じられること、こうしたヒトに備わった能力を上手に発揮すれば、人間のウェルビーイングと社会のサステナビリティを達成できると思います。
地球温暖化に対してエアコンで居住空間のみを冷やすように、現在の技術は「問題を先送りする」ものだと感じます。リニアモーターカーのように時間を短くすることのメリットは何でしょうか?加速することがなぜそんなに大切なのでしょうか?
資本主義の特徴は、無限の投資と経済成長、速ければいいという価値観です。価値観をいっぺんひっくり返すこと、結果ではなくプロセスを楽しむことが重要になると思います。
環境と豊かさを両立させることが重要だと思います。価値観を変えることは非常に大事ですが、それをどうやって実現させれば良いのでしょうか?日本としての目指す姿を作れていないので、そこを描いていくことが重要だと感じます。
産業革命以前、日本なら江戸時代は完璧な循環社会です。当時のパリは、し尿の処理もできていませんでした。農業革命前では、縄文社会も狩猟採集にもかかわらず定住生活、争いも少なかったと言います。こうした日本のもつ豊かな歴史にも答えがあるのではないでしょうか。